EPISODE 001
白い線
雨の上がった木曜日、桐生航平は、古書店の前で足を止めた。修理を終えた真鍮のランプを、布で包んで抱えていた。港へ続く道には、塗り直されたばかりの白線が光っている。
「夜の方が、きれいなんですね」
店員の水城澪が、灯ったガラスをのぞきこんだ。二十九歳。昼は古い本を売り、閉店後は自分の手で一冊の本を綴じている。航平は三十七歳で、壊れた灯具を直す小さな工房を営んでいた。
「暗くならないと、分からないものもあります」
そう答えると、澪はランプから目を離した。仕事の話としては、少し余計な言葉だった。修理代の封筒を受け取り、航平は礼を言った。もう帰る理由は整っているのに、二人とも扉の方を見なかった。
帰り道、航平は白線の外側を歩いた。背後で店の明かりが消えるまで、振り返らなかった。
その夜、澪は綴じかけの本を閉じ、名前を置いて過ごせる場所を探した。青い画面の奥で、一羽の鳥が止まり木にいた。
















